●論点整理
◇受け皿整備が先決ー宮本太郎中央大教授
従来の日本の雇用政策は、会社がつぶれない形を作って人を抱え込んだ。それはもう持たない。成熟分野から成長分野へどんどん人を移動させ、雇用を維持することには賛成だ。しかし、政府の成長戦略には二つの疑問がある。(中略)今や製造業は成長産業ではない。むしろ、製造業であぶれた人材を対人サービスに移すことになる。しかし、例えば政府が雇用創出を見込む介護分野は低賃金などで1年間に100人中20人がやめる。北欧モデルの「失業なき労働移動」の時代とは舞台が大きく変わっている。(中略)高年齢者雇用安定法が改正され、希望者全員の65歳までの雇用継続が義務付けられた。だが、高齢者の就業率は1980年と比べてむしろ下がっている。高齢者の雇用の受け皿として「社会的企業」(環境、福祉、教育などの課題に貢献する企業やNPO)は重要なのに、自民党への政権交代で議論されなくなった。「新しい公共」は民主党の十八番ではない。地域の支え合いにもつながる保守本流の課題だ。
◇毎日新聞社説:日本経済の活力ー非製造業こそカギ握る
安倍政権の経済政策はこれまで、輸出型の製造業を円安で支援することに主な力点を置いてきた。日銀による異例の金融緩和で円安が進めば、自動車や電機などメーカーの株価が上がり、それが市場全体を盛り上げて、消費や設備投資を刺激する、というシナリオだ。しかし、日本経済を活性化したいのなら、製造業より非製造業に、もっと目を向けるべきである。日本経済を語る時、いまだに「ものづくりの国」とか「輸出立国」といった表現が使われるが、実態はとっくに様変わりしている。例えば、製造業が国内総生産(GDP)に占める割合は1970年の約36%に対し、2011年は約19%まで低下した。就業者の比率も、最近は約16%だ。非製造業の、サービスを中心とした分野が今や圧倒的なのである。問題は、このサービス産業で賃金が伸びていかないことだ。生産性においてもグローバル化の点でも日本のサービス産業は他の先進国に劣っているとされる。経済政策の焦点を製造業に当てたままでは、問題の本質に対処できない。まずは、産業構造が大きく変化した現実を直視することだ。そのうえで、規制緩和、サービス産業のグローバル化促進、人材の育成に本腰を入れて取り組むべきである。新規参入企業は既存企業より通常、生産性が高いとされるが、サービス産業における事業所の開業率で日本は米国の半分程度しかないとのデータもある。障害となっている規制の撤廃や所管する役所の窓口の一本化などを加速させねばならない。企業のグローバル化は製造業の話と思われがちだが、非製造業こそ今後、力を入れていくべきだ。製造業の工場移転と違い、例えば宅配業者がアジアに進出したからといって、国内の事業が細るわけではない。日銀の最近のリポートによると、小売りや卸売り、運輸などでは、海外進出がむしろ国内の親会社の雇用を増やすことになるという。生産性の高い海外企業の日本進出を促す努力も必要だ。こうしたグローバル化を進めるうえでカギを握るのが人材である。外国語の技能は不可欠だが、新しいものにチャレンジする精神、積極的、魅力的に売り込む力を育む教育が肝心だ。サービス産業の強化は、円安誘導や設備投資減税といった従来型の発想では無理だろう。成長業種を国が指定して予算を配分するとか、特定企業を政府が海外に売り込むという政策も、競争をゆがめ、無駄な歳出につながる恐れがある。目を引く数値目標やキャッチフレーズではない。地道な改革こそ今、求められている。